東京高等裁判所 昭和30年(う)1854号 判決
被告人 松浦一夫
〔抄 録〕
論旨第二点について。
原判決が、その理由中判示第三の事実として、所論摘録のような共同正犯の事実を認定判示し、これに対して刑法第六十条、第百六十一条第一項、第百六十条、罰金等臨時措置法第三条、第二条第一項を適用していること、及び本件起訴状には、右の点について、公訴事実の第三として、「(前略)虚偽の記載をした死亡診断書二通を北田種之助に手交し同人を介して同日之を荒川保健所及荒川区役所に提出せしめて以て虚偽診断書を行使し」との記載があり、罰条として、刑法第百六十一条第一項を掲げているだけであつて、同法第六十条を挙げていないこと、並びに、その後この点について、訴因、罰条の訂正変更等が行われた形跡の記録上認められないことは、いずれも、所論指摘のとおりであつて、所論は、原判決には、右の点について、審判の請求を受けない事件について判決をした違法がある旨主張するのであるが、しかし裁判所が訴因変更の手続を経ないで訴因と異る事実を認定することは、訴訟手続における法令違反であるけれども、公訴事実の同一性を害していない限り、審判の請求を受けない事件について判決したものとはいえないと解すべきところ、これを本件についてみるに、原判決が、判示第三の事実として認定しているところは、本件起訴状中公訴事実の第三として記載してある前示の事実に照らし、公訴事実の同一性を害するものとは認められない上に、記録によれば、原審が、右共同正犯の点について、訴因変更の手続を経ないで、訴因と異る事実を認定した訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすものとも考えられないところであるから、原判決には、この点について、所論のような審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるものということはできない。論旨は理由がない。
(中西 山田 石井謹)